束の間の箱庭

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総司はかぷりと棒に齧りついて、綺麗にアイスを完食してしまった。 可愛い顔に似合わず、豪快なところがある。くすくす笑っていたら、馬鹿にされたと勘違いしたらしい総司が私の頬を摘まんだ。 「そうちゃん」 「あ、こずも溶けそ~。もーらい」 人の咀嚼を邪魔しながら、総司が当たり前のように私のアイスに手を出した。唖然として、大口で食べきってしまった総司に笑い声がこぼれ出た。 私の手元に残っていた三分の二ほどのアイスはすっかり消えて、プラスティックの棒だけが取り残された。 その場にあるだけで華やぐ人とは総司のような人間のことを言う。 「もう、勝手に食べる~!」 「総司、行儀悪いよ」 私の言葉を追うように、亜貴がなだらかな声を打つ。 亜貴の注意はあんまりにも優しいから、注意に聞こえない。諭された総司は「へいへい」と言いながら、やはり反省した様子もなかった。 「こずえ」 「うん?」 「俺の、食べていいよ」 勝手に食べられた私に、亜貴が躊躇いなく差し出してくれる。 ずっと三人だった。 私たちは物心がつく前からずっと一緒で、何物にもとらわれずに三人でいた。 男を侍らせていると蔑むように言われたときも、二人は気にすることなく私と一緒にいてくれた。 今の私たちは、確かに、男女の友情が成立しているように見えるのだろうか。 私にはわからない。考えると、視界に星が散らばって、目が眩んでしまう。極力思考を逃がしてから、亜貴が差し出したアイスに小さく齧り付いた。
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