机下で触れる指先

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ゆっくりと瞬きしている。私が苦しんでいないか、観察しているような瞳だった。亜貴の瞳に映る私も、同じような顔をしているのかもしれない。 「行きたい?」 「うん?」 「梢は、行きたい? 海」 あくまでも、亜貴は私が行きたいかどうかで決めようとしているらしい。ここで私が我儘を起こして「行きたくない」と言えば、きっと亜貴も、行かないと言ってくれていただろう。けれど、どうなのだろう。 「私、朋ちゃんの水着姿、見たいかも」 好きな人のそういう姿を見たいと思うのが普通なのだとしたら、その一瞬だけでも目に焼き付ける機会があっても良いのではないか。 忘れてくれたらいいと思いながらも、私はずっと亜貴の瞳に映り続ける朋美への愛を、大切に抱きしめていたい気がする。 ぐちゃぐちゃに絡まった心臓が動いている。ただ、心臓だけが私を生かして、残酷なまま、亜貴の指先を握った。 「梢ちゃん、マジ可愛い。天使。もう、めっちゃ気合い入れて水着選ぶわ」 「ふふ、それは楽しみ」 「よし、いいぞ。じゃあ運転は亜貴な」 「あ、やっぱり。俺運転要員なんじゃないかと思ったんだよなあ」 「ばれたか」 「はは、まあ、総司の運転する車に梢と朋美ちゃんを任せたりしたら心配で眠れなくなりそうだから、仕方ないか」
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