机下で触れる指先

15/21
前へ
/442ページ
次へ
「あっくんは俺だけに厳しい……」 「ソージ、厳しさは愛だよ」 「ええ〜、それ、あっくんじゃなくてともちゃんが言う?」 厳しさは愛。耳に残って、瞼を擦り合わせる。 亜貴の指先は、オーダーしたオムライスが来たところであっさりと離れた。結局朝方まで喋り続けていた私たちは、5時に差し掛かったところで腰をあげた。 「じゃあ、梢ちゃん、明後日買い物ね」 「うん、わかったよ」 朋美がどうしても一緒に買いに行きたいと言い続けて、序盤で亜貴が折れた。「あんまり寒そうなやつ、やめてね」と言った亜貴に、総司はゲラゲラ笑っていた。 総司と朋美が当たり前のように隣を歩いている。 二人は住んでいるアパートが近いから、帰る方向も同じだ。最近は半同棲のような調子らしいから、たまに二人から馨るシャンプーの匂いが同じだったりすることがある。 気づいているのが私だけであればいいと思う。亜貴は、どうしようもなく傷つくだろうから。 「それじゃあ、またね~」 明日もバイト先で会う二人が、遠ざかっていく。 私と亜貴の前では手を繋いだり、あからさまなスキンシップを取ったりしない。だからこそ、シャンプーの香りがしただけで、こんなにも動揺してしまうのかもしれない。
/442ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4032人が本棚に入れています
本棚に追加