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「あっくんは俺だけに厳しい……」
「ソージ、厳しさは愛だよ」
「ええ〜、それ、あっくんじゃなくてともちゃんが言う?」
厳しさは愛。耳に残って、瞼を擦り合わせる。
亜貴の指先は、オーダーしたオムライスが来たところであっさりと離れた。結局朝方まで喋り続けていた私たちは、5時に差し掛かったところで腰をあげた。
「じゃあ、梢ちゃん、明後日買い物ね」
「うん、わかったよ」
朋美がどうしても一緒に買いに行きたいと言い続けて、序盤で亜貴が折れた。「あんまり寒そうなやつ、やめてね」と言った亜貴に、総司はゲラゲラ笑っていた。
総司と朋美が当たり前のように隣を歩いている。
二人は住んでいるアパートが近いから、帰る方向も同じだ。最近は半同棲のような調子らしいから、たまに二人から馨るシャンプーの匂いが同じだったりすることがある。
気づいているのが私だけであればいいと思う。亜貴は、どうしようもなく傷つくだろうから。
「それじゃあ、またね~」
明日もバイト先で会う二人が、遠ざかっていく。
私と亜貴の前では手を繋いだり、あからさまなスキンシップを取ったりしない。だからこそ、シャンプーの香りがしただけで、こんなにも動揺してしまうのかもしれない。
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