机下で触れる指先

17/21
前へ
/442ページ
次へ
「眠いでしょ。俺ん家で寝ていいよ」 例えば、私の髪から、亜貴と同じ匂いがしたら、あの二人も、私と同じ気分を味わうのだろうか。 ひどく悪いことをしている気がする。実際に嘘という悪いことをしているのだろうけれど。 「うーん? ちゃんとお家帰れるよ?」 「ダメ。さっきから瞼が溶けちゃってる」 「ふふ、とけちゃってる?」 可愛らしい表現だ。復唱したら、亜貴が「茶化してる」と呟く。亜貴の部屋に泊まったことがないわけじゃない。 付き合い始めて、2か月後には部屋に招かれていた。二人でテスト勉強をするという健全な目的だったけれど。 それからも、気まぐれに亜貴に誘われては部屋に上がった。どれも、幼馴染の時に、亜貴の実家の部屋にあがった理由と全く同じだ。 映画を観たいとか、勉強を教えてもらうとか、一緒にゲームをするとか。 「ううーん、でも、お布団入る前に、シャワー浴びたいし」 「うん、使っていいよ」 「パジャマ、は、あるもんね……」 「あるね。洗濯しておいたよ」 「あ、ありがとう」 「どういたしまして」 「あれ、これ」 「うん?」 「亜貴の家、向かってる?」 喋りながら、亜貴が誘導するように半歩前を歩いて、いつもまっすぐに進む道を右斜めに進んだ。声に出せば、亜貴が「ばれた?」と笑っている。
/442ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4032人が本棚に入れています
本棚に追加