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「眠いでしょ。俺ん家で寝ていいよ」
例えば、私の髪から、亜貴と同じ匂いがしたら、あの二人も、私と同じ気分を味わうのだろうか。
ひどく悪いことをしている気がする。実際に嘘という悪いことをしているのだろうけれど。
「うーん? ちゃんとお家帰れるよ?」
「ダメ。さっきから瞼が溶けちゃってる」
「ふふ、とけちゃってる?」
可愛らしい表現だ。復唱したら、亜貴が「茶化してる」と呟く。亜貴の部屋に泊まったことがないわけじゃない。
付き合い始めて、2か月後には部屋に招かれていた。二人でテスト勉強をするという健全な目的だったけれど。
それからも、気まぐれに亜貴に誘われては部屋に上がった。どれも、幼馴染の時に、亜貴の実家の部屋にあがった理由と全く同じだ。
映画を観たいとか、勉強を教えてもらうとか、一緒にゲームをするとか。
「ううーん、でも、お布団入る前に、シャワー浴びたいし」
「うん、使っていいよ」
「パジャマ、は、あるもんね……」
「あるね。洗濯しておいたよ」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「あれ、これ」
「うん?」
「亜貴の家、向かってる?」
喋りながら、亜貴が誘導するように半歩前を歩いて、いつもまっすぐに進む道を右斜めに進んだ。声に出せば、亜貴が「ばれた?」と笑っている。
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