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遅刻常習犯の朋美は、すでに私が描いたゴマアザラシを見て「うまい、梢ちゃん天才」と囁いている。
「あはは、ありがと」
「次私ね、ん~、何にしようかな」
私に甘いところは、亜貴にそっくりだ。
私の周りには優しくて丁寧な人ばかりがいるから、悪意を持つ理由がない。とても良いことだと思っていた。
逃げ場のない感情に出会うまでは。
「とーもちゃん」
あまったるい声がした。すぐ横から響いている。
いつものことだ。
いつもと同じなのに、どうしてこんなにも狂おしいのかわからない。その声で何度でも地獄に突き落とされる気がする。
「な・あ・に」
「こずじゃなくて、ほら、挨拶しなきゃいけない相手いるじゃん?」
「う~ん?」
「ほら、ほらほら、挨拶されたくて待ってるボーイ、いるじゃん」
「え~? 亜貴くん、おはよ~」
「うん、……おはよう、朋美ちゃん」
いつも、同じ流れになる。
ここ1年の、私たちのお決まりの行事みたいなものだ。誰一人傷つかなくて良いはずだ。誰一人苦しまなくて良いはずだ。
亜貴と静かに視線がぶつかった。その目の切なさに、私はあと何回、救われない恋心の行方を思ってしまうのだろうか。
「ちがうでしょ。彼氏に挨拶」
「うん、おはよう。ソージ」
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