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「こず! いちゃいちゃしてんなよ!!」
振り返った先の総司が、後ろから朋美に抱き着きながら手を振ってくる。二人羽織みたいにタオルを引っ掛けて、二人で笑っていた。
夏みたいな二人だ。
どこまでも清々しい。亜貴の好きな人が笑っている。私を見て、総司と同じように手を振ってくれている。
この場所で私が亜貴に抱き着いたら、亜貴は、どれだけ傷つくのだろう。想像上の世界でも、心がちぎれてしまいそうだ。
ただ無意識に手をあげて、ひらひらと振り返している。もう、これ以上亜貴に見せたくないと思った。
「亜貴、」
「行こう」
後ろにいる亜貴を振り返って、ためらうことなく私の指先に触れた熱を見た。亜貴は、当然のように指先を絡めて、私の目を見た。
「梢のことべちゃべちゃに濡らした総司なんて無視しよう」
茶化すような言葉なのに、どうして亜貴の声は、優しいのだろう。
まるで傷ついた私を励ますような声だった。
優しいからなおさら罪悪感に溺れる。亜貴は、私が総司のことを好きでいると思っている。
だから、側にいられる。こうして指先に触れてもらえる。
亜貴の隣にいるために、私は何度でも嘘を吐いて、亜貴を騙し続けなければならない。気の遠くなるような嘘だった。
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