夏の奇跡の輝きで

21/30
前へ
/442ページ
次へ
いつかはほころびが出る。わかっているのに、それが今ではないことを切に願って、亜貴の後ろ姿を眺めていた。 「座ろうか」 「……うん」 無言のままレジャーシートまで連れてきてくれた亜貴は、シートの上にタオルを置いて、私に座るように促している。 少し海べりからは遠ざかったところに敷かれているから、周りには誰もいなかった。 遠くに喧騒が流れている。 海の匂いが染みついた体で二人、友達みたいな距離に座って、じっと波の流れを眺めていた。 嘘を吐く用意はできている。この場所を守りたいがための汚い嘘に、いつまでも気付かないでいてほしいと思う。 きっと知ったら、亜貴はもっとずっと深いかなしみにとらわれて、今度こそ、私たちはばらばらになってしまう。 どうして私は、ばらばらになってしまうことを知っていて、それでも亜貴の手に縋り付いているのだろう。 「えへへ、調子乗っちゃった」 吐く瞬間から、痛みは猛烈に襲い掛かってきていた。 心の何かがねじれて、血が止まってしまったみたいだ。震えそうな体のまま、亜貴を見る勇気もなく、ただ青空に吐き出している。 亜貴は、私を助けたい一心で声をかけてくれた。 総司と朋美の二人から、必死で引き離そうとしてくれた。都合の悪い愛を隠してしまおうと懸命に努力を続けていた。亜貴のやさしさで、全部がこわれてしまいそうだ。
/442ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4031人が本棚に入れています
本棚に追加