4033人が本棚に入れています
本棚に追加
亜貴は、どうしようもなく傷ついているだけ。私が好きなわけじゃない。
きっと、私と二人で、傷つかない世界に行ければいいのにと思ってくれている。今はあの二人を直視する勇気がぼこぼこになって、ただ傷をなめ合っているだけだ。
好意なんてない。だから、こんなことで揺さぶられたりしてはいけない。
ちかちかする視界の中で、何度も戒めている。大きく息を吸って、茶化すように笑った。本気にしたら、全部が終わってしまう。
「あまえる亜貴、めずらしい」
「もう、世界から俺とこず以外、なくなったらいいのに」
「ふふ、おおげさだよ」
「このまま、逃げ出しちゃおうか」
どんな顔で囁いているのだろう。亜貴は私に見せたくないみたいに首筋に額を押し付けて、ただ口遊んでいる。
くるしいだけの現実から逃げたって良い。けれど、それがあの二人を傷つけることならば、きっと私も亜貴も、その道を選択することはできないのだろう。
何も言えないまま、黙り込んだ。その束の間に亜貴の腕の拘束が緩む。
「あき」
誰よりも近くに亜貴がいる。亜貴のダークブラウンの瞳の神秘を覗き込んで、同じように覗き込まれているような気がした。小さく笑ったら、亜貴がようやく笑った。
「髪、乾いてきたね」
「うん。水着も乾いたよ」
「そっか。よかった。寒くない?」
「ふふ、あっついよ」
最初のコメントを投稿しよう!