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海の中に放り出されたかのような雨だった。総司と朋美が傘を忘れたというから、私のものを貸して、亜貴と二人、肩を触れさせながら歩いている。
「ひどいね。本当に降ってきたかあ。梢、もっとこっちに寄って」
言葉にしながら、亜貴がやさしく私の右肩に触れた。泣きたくなるくらいに丁寧に私の体を抱いて、近づいた距離を確認するとあっさりと離れていく。
「本当にね。これなら花火大会中止もやむなしって感じだよね。そうちゃん、明るくしてたけど、ショックだっただろうなあ」
「はは、そうだねえ。総司は祭りとか大好きだから、楽しみにしてただろうね。でも朋美ちゃんに慰めてもらってるんじゃないかなあ」
ぽろりと吐かれた言葉に、必死で笑みを作った。
斜め上に見える亜貴の表情を盗み見ている。まっすぐに前を見つめていた瞳が、私をとらえた。その瞳にかなしみが映っていると知ってしまうのがおそろしい。
おそろしいくせに、確認せずにはいられない。
「梢は、二人と一緒が良かった?」
小さなつぶやきだった。困ったような瞳に、胸がこなごなになる。割れて、ぼろぼろになってしまったような気がした。
眩暈のようなくるしみをやり過ごしたくて、ゆっくりと瞼を擦らせた。
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