夏の奇跡の輝きで

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攫われるなら、亜貴が良い。逃げるなら、亜貴と一緒が良い。何一つ言えないまま、笑って言葉を返した。 「子どもじゃないんだから」 「うん、子どもじゃなくても心配なの」 いつまでもお兄ちゃんだと思う。どうにか恋人みたいに触れようとしているのがわかるから、たまらなくかなしくなった。 「俺のだよってマークつけておきたいなあ」 無理して、すきなふりを頑張らなくていい。言いたくなって、言えないまま亜貴のパーカーに腕を通した。 ぶかぶかのそれは、亜貴と私の体のつくりが大きく変わってしまったことを表しているようで、少しさみしい。さみしいなんてどうかしているのかもしれないけれど、もう、亜貴と同じものなんてないような気がして切なくなった。 亜貴と一緒だったなら、よかったのに。 亜貴は中学まで水泳を習っていた。三人で市民プールに遊びに行っても、亜貴だけはしっかり泳ぎを楽しんでいて、私と総司はもっぱら遊泳しながら亜貴の競泳を見つめているばかりだった。今でもきっと泳ぐのが好きだと思う。 すでに総司は朋美と二人でビーチバレーを楽しんでいるようだった。亜貴が見つめる二人を同じように見つめて、遣る瀬無さに立ち止まった。 どんなに忘れようとしても、亜貴がそばにある限り、私は何度でも3人のトライアングルを眺めて泣き出したいような心地になる。
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