花火のような恋が砕ける

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亜貴が、合っていないわけじゃない。 私にとって、特別が亜貴一人だったように、朋美にとっての特別も、総司だっただけだ。ただそれだけのことなのに、現実は上手く行かない。 「梢ちゃんはソージに甘いからね」 「そう?」 「亜貴くんも嫉妬するくらい」 「ええ? してないよ」 ざくり。切るつもりのないところが切れた。 あ、と声をあげそうになったのを堪えて、長ネギをずらす。朋美の目から見た私と亜貴は、非常に良好な関係を築けている。 それがどれだけ亜貴の心に沿わないものなのか知っている私としては、この手の話題が苦手だ。 えのきを等間隔に切っていく朋美の刃先を見つめながら、思考の先を逸らしている。総司は料理が上手い方らしい。 これだけ長く一緒にいて、朋美に言われて初めて知った。 いつも、総司が家に来るときは、相当に酔っ払っていたし、私が振るまうばかりだったから。総司は、好きな女の子の前では料理も頑張ってしまうのだと知った。可愛い男の子だなと思っている。 わかるなあとも思う。 共感するのは、私がいつも亜貴にご飯を振舞っているからなのかもしれない。 亜貴はきっと強要するつもりなんてないし、自分の料理にそこそこ満足しているのだと思う。美味しくはないけれど。 あんなに情緒的に他人に寄り添えるのに、亜貴は自分の事情にあまり興味がない。
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