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エピソード1〔2人の王子〕
Chapter1
――若く愛らしい姫は、馬車に揺られている。
未来の夫となる王子に会うために。――
暖かく優しい風に歌う色とりどりの花々、常春の大地に溢れる作物。
海峡に面した穏やかな気候の小国フローリア大公国。
そこにはいにしえからの神話があり国内はもとより国外にも、その言い伝えは信仰されていた。
〜フローリア地方で、月に隠されていた星が薄紅色に煌き、昼間よりも明るく照らされた真夜中に生まれ、その星と同じ色の瞳を持つ女性は、その国を繁栄させ安定をもたらす女神となる。〜
その神話の通り、フローリア大公国の大公アルバン・ミラベルと、その妃フェリシアの間に産まれた女の子がいた。
神話の言い伝えの日に産まれたその姫は薄紅色の星と同じ色に輝く瞳を持っていた。
彼女はフィオナと名付けられ、家族や国民から愛情を注がれ育てられ穏やかで素直で優しい少女に成長した。
彼女が母親と同じような体の曲線を描くようになった頃、彼女の美しさはより一層際立った。
透き通るなめらかな白い肌に、光の反射でローズピンクに艶めく栗色の髪。クリスタルのようにきらめく薄紅色の大きな瞳と、朝露を纏ったピンクのバラのような唇。
神話の日に生まれた少女という他に、その愛らしい美しさで国内外で評判となっていた。
*****
Chapter2
フィオナは神話で謳われている伝説の姫となったことから、聖女のような扱いで育てられたため、優しい子だが少し浮世離れしていて夢みがちな、悪く言えば世間知らずな少女だった。
彼女が地に足がついていなくても大丈夫だったのは、家族と神話を信仰しフローリア大公国の公族を慕う国民に守られていたからだ。
しかし、フローリア大公国自体は比較的平和であったが、隣国で友好国でもあるレノール王国はアルトロワ王国と対立していた。
フローリア大公国がレノール王国とアルトロワ王国にとって重要な拠点であることの他に大きな影響をもたらすのは、それぞれの国の信仰がフローリアの神話に繋がるからであった。また、小国であるフローリア大公国が独立した状態であるのは、その神話があるからだった。
そんな中、フローリア大公アルバンと妃は、娘フィオナの将来を心配した。
そして、友好国であるレノール王国の王子との縁談は自然な流れだった。
国のための政略結婚。
*****
Chapter3
〜出発前〜
フィオナは幼い頃から、レノール王国へと嫁ぐことは決まっていたようなものだったので、それほど不安な気持ちはなかったが、故郷を離れることになり少し感傷的な気持ちになっていた。
レノール王国への出発の時間が近づき、お城の前庭には馬車が数台用意され、皆が若い姫を見送る為に、そこに集まっていた。
「フィオナ。王と王子さまの言うことを、よく聞くのですよ」
亜麻色の長い髪の頭上に戴く美しいティアラに劣らないくらいの優美な女性がフィオナへ優しく声をかける。
「はい。お母さま」
フィオナの母でありフローリア公国の公妃フェリシアの隣にいた兄アレンも隣国の花嫁になる妹を見守っている。こげ茶の髪に、琥珀色の瞳。髪は短髪に整えられていて、柔和な母フェリシアの顔立ちとは対照的に、凛々しい顔立ちだった。
「俺にひっついて泣きべそをかいていた妹がレノール王国に嫁ぐなんて、なんだか不思議な感じだ」
「お兄さま、私はもう子どもじゃないわ」
フィオナがぷくりと頬を膨らませて見せる。
「まだまだ、子どもだな」
兄はフィオナのその仕草を見て、彼女の幼さをからかった。
すると、兄アレンの片足に小さな男の子が勢いよく絡みついて来た。その男のはアレンの片足に、ひっついたままニコニコと無邪気な笑顔でフィオナに尋ねる。
「ねえ、フィオナいつ戻ってくるの?」
「オリヴァー。フィオナはこれからお嫁に行くんだ」
兄アレンは、その小さな少年を諭すように言った。
その子は、兄アレンの一人息子でフィオナの甥っ子にあたるオリヴァーという男の子だった。父親譲りのこげ茶色の髪と琥珀色の瞳を持ち人懐っこい愛嬌がある性格は母親譲りで、フィオナは初めての甥っ子ということもあってか、オリヴァーが可愛くて仕方がなかった。
「フィオナに会えなくなっちゃうの?」
オリヴァーは、悲しそうな表情で、フィオナに潤ませた瞳を向ける。
フィオナが、幼いオリヴァーになんと声を掛けていいか戸惑っていると、オリヴァーの後ろにいた彼の母親ヴィクトリアが駆け寄り息子を嗜めた。
「オリー。フィオナおねえちゃんを困らせちゃダメでしょ。ごめんなさい。フィオナ」
慌ててオリーを制止する綺麗な女性は、オリヴァーの母でありアレンの妻のヴィクトリアだった。先程までオリーの手を引いていたが、オリーがフィオナに近づくために母の手を振り切ってしまったらしい。
ヴィクトリアは、アッシュブロンドのなめらか長い髪と灰色がかった水色の瞳の容姿端麗できらびやかな女性だった。兄アレンは、政略結婚であったのにも関わらず彼女に出会った瞬間からベタ惚れし、とても仲の良い夫婦だった。フィオナの父と母も同じく政略結婚で結ばれたが、相思相愛の仲睦まじい夫婦で、フィオナも政略結婚でも両親や兄達のような結婚ができればと思っていた。
「ううん。私もみんなから離れるのは寂しいもの」
フィオナは、小さいオリヴァーの目線に合わせて腰を下げ、彼の手を取った。
「今までのように、いつもそばにはいられないけど、また会えるわ。それにずっとオリーのこと大好きよ」
「また会える?約束だよ」
「うん。約束」
フィオナとオリヴァーは、小指を絡めて約束を交わした。
フィオナは、腰を上げ視線を上げると、母や兄達の後方に見慣れた顔が映った。家令のエドアルドと、その息子のネイトが見えた。
ミラベル家の家令であるエドアルドは、眼鏡をかけたきっちりとした壮年の男性だが、息子のネイトの方は、気さくな雰囲気でアッシュブラウンとヘーゼル色の瞳が爽やかな男の子だった。
ネイトはフィオナと同い年で、彼女にとって幼なじみというか歳の近い兄のような存在だった。内向的だったフィオナが馬に乗れることができたのはネイトのおかげと言ってもおかしくなかった。
運動神経が良かったネイトは騎士になり、今回フィオナをレノール王国まで送り、結婚式が終わるまで彼女を護衛する役割を担っていた。
ネイトは、少し不機嫌そうな表情で、フィオナに近づいて話しかけてきた。
「――何か嫌なことがあったらすぐに戻ればいい」
ネイトがそう言うと、すかさずフィオナの近くにいた侍女のソフィーが二人の会話に割って入ってきた。
ソフィーは、オレンジ色の髪にブラウンの瞳、真夏の日差しのように明るい少女だった。
「何言ってるのネイト! 縁起でもない。それにレノール王国の王子さまは、完璧なんだから!そんなことあるわけないでしょ!」
侍女ソフィーとネイトとフィオナは、同い年ということもあってか幼い頃から仲が良く、このようなやりとりは日常と言った感じだった。
「わたくしの愚息がさしでがましいことを、申し訳ございません。フィオナ様」
「エドアルド謝らないで。」
フィオナは、頭を下げるエドアルドに言った。そして、ネイトの方に向き直り仏頂面の彼に声を掛ける。
「心配してくれて、ありがとうネイト」
ネイトは、言葉にならないような声で「おう」と相づちを打った。
「さあ、フィオナ。そろそろ時間だよ。」
フィオナの肩をに手を乗せて馬車へと促したのは、フィオナの父アルバン大公だった。
アルバンは、穏やかな顔立ちで、うっすらとある目尻の笑い皺が、彼の穏やかな表情をより優しく引き立てている。
フィオナは、後ろ髪を引かれながらも、馬車へと乗り込もうとする。彼女は、その際、最後に生まれ育った愛おしいフローリア公国のみんなやお城、全てを目に焼き付けたいと思い、後ろを振り返った。
みんながフィオナを温かく見守ってくれている。すると、見送りの人達の少し離れた後方にいたフィオナの父方の祖母を見つけた。
フィオナがナナエレナ(エレナおばあちゃん)と呼んでいた祖母のエレナは、上品で美しく優しい女性だったが、芯の強い人でもあった。
そして、彼女は最後までフィオナがレノール王国に嫁ぐことをなぜか賛成していなかった。
明確な理由は口にしなかったものの、保守的な祖母は、小国であるフローリア大公国がいずれレノール王国に吸収されることを危惧しているからだという諸侯達の会話をフィオナは耳にしたことがあった。
しかし、父のアルバン王は「母は少し変わっている人だから気にすることはない」と言っていた。
父やフローリア大公国の多くの諸侯らは同盟国で友好的なレノール王国よりも、アルトロワ王国という異教徒の大国を警戒していた。
レノール王国の方は、長年アルトロワ王国と敵対関係にあり、フローリア大公国との繋がりを強固にすれば、アルトロワ王国を牽制できるという互いの利益があった。
フィオナは、憧れであり大好きであった祖母エレナに嫁ぐことを全面的に賛成してもらえなかったことが少し悲しかったが、遠巻きで見守っていた祖母エレナと目が合い、祖母はフィオナに向かって会釈し優しく微笑み返してくれた。
賛成はしてくれなかったが、旅立つ孫を応援してくれていることは確かだった。彼女は潤んだ瞳で祖母に精一杯微笑み返し、父と共に馬車に乗り込んだ。
「行ってきます」
フィオナは、馬車の窓から皆に挨拶をして手を振った。母や兄、オリーやヴィクトリア達は、手を振り返し、家令のエドアルドは深々とお辞儀をしている。
*****
Chapter4
「フィオナがいなくなると寂しくなるな」
フィオナと同じ馬車に同乗していた父アルバンが、ぽそりと呟いた。
「私も、みんなと離れるのは寂しいです。だけど、フローリアとレノール両国の繁栄のために、がんばります」
「無理をさせて、すまない。フィオナ」
「いいえ。公女として生まれた私の務めです」
フィオナは、馬車から流れるフローリア公国の風景を眺めた。
感傷に浸っているとフィオナ達を乗せた馬車はレノール王国に入っていた。
シックな作りの馬車が整備されたレノール王宮への道を進んでいき、馬の蹄鉄が石畳を蹴る音が馬車の中に心地良く響く。
父親アルバン大公は、白髪混じりの黒髪を丁寧に整え、シックで落ち着いた色合いだが上質な生地のダブレットを着て、ペリースを左肩にかけている。
フィオナの方は、デコルテにリボンの装飾が施されたペールイエローのふんわりとしたドレスに、ベビーピンクのショールを羽織っている。
アルバン大公の柔和で上品な人柄は、そのままフィオナに引き継がれていた。
「フィオナ。レノールの王子は優しいお方だ。安心しなさい」
アルバン大公は、馬車の向かいに座っている娘に声をかけた。
「はい。お父さま」
フィオナは、レノール王宮に行くのは初めてではなかった。幼い頃、何度か行ったことがあり王子達とも遊んでいたので王宮も彼らのことも知っていた。
しかし、第一王子のジョシュアが本格的に政務や軍事に参加するような年頃になると、王宮へ遊びに行くことはなくなってしまい、長い間会っていなかったので彼らがどのように成長しているかわからなかった。
ジョシュア第一王子の評判は国境を超えて有名だった。
英姿颯爽、頭脳明晰、眉目秀麗。
フィオナは幼い頃の彼を知っているが、その頃から優秀で美しかったので、その評判も納得してしまう。
(私なんかが、そんなお方のお妃候補になれるのかしら)
自分は神話伝説の姫という肩書だけの平凡な人間で、才能豊かで有望な彼につり合うのか不安に思っていた。父アルバンは、そんなフィオナの様子を察して声をかけてくれたのだろう。
そうしているうちに、青い尖塔を抱える白く輝く大きなお城が見えてきた。馬車は王宮への巨大なゲートを通過し、城の前に広がる手入れが行き届いた色彩豊かな庭園へと向かう。
そこには臣下達を従えた王族が整列しているのが見えたがフィオナは緊張で、その群衆を直視できなかった。
馬車はゆっくりとその群衆の前に停まる。
従者が馬車のドアを開け、アルバン大公が先に降りた。フィオナは従者にエスコートされ馬車から降りたが、急に明るい場所に出たため、まぶしくて前が見えなかった。
すると目の前にスラリとした長い手足の人物のシルエットが映った。
今度は逆光で顔がよく見えない。でも、長身でスレンダーだが服を着ていても鍛えられて引き締まっているのは一目でわかった。
「フィオナ姫。久しぶりだね」
低音で落ち着いた美しい響きの声。
フィオナの目はやっと日差しに慣れ、目の前の人物の顔が見えるようになった。
上品なオリーブブラウンの髪に、端正で精悍な顔立ちを称えるように輝くエメラルド色の美しい瞳。
フィオナは思わず息を呑み、それが誰なのかすぐにわかった。聞いていた評判や、自分が予想していた以上の美青年になっていた。急に気後れしそうになったが、ふと我に帰り返事をする。
「お、お久しぶりです。王太子さま」
「ジョシュアでいいよ。フィオナ。俺もそう呼ぶから」
「あ、はい」
「緊張してる?」
「はい」
すると、ジョシュア・ジェラルド王子は、にこりと優しく微笑みフィオナに手を差し伸べた。フィオナは、その手を取りジョシュアにエスコートされ、レノール王に導かれた。
フィオナの父アルバン大公は、すでにレノール王ジョゼフに挨拶をしていた。
レノール王ジョゼフ・ジェラルドは、ジョシュアを1回り大きくして、そのまま歳を取らせた感じで、ロマンスグレーの髪と髭を蓄えている。
「久しぶりだね。フィオナ」
低く安定した声で優しくフィオナに挨拶をしたジョゼフ王。
「お目にかかれて光栄です」
「堅くならなくてもいい。長旅で疲れただろう。夜には歓迎の宴をするので、それまでゆっくり休むといい」
「ありがとうございます。陛下。」
フィオナが会釈し顔を上げると、王様の隣にいた1人の青年と目が合った。
明るいオリーブブラウンの髪に、明るいエメラルド色の瞳。
顔立ちはジョシュアに似ているが、色白で髪型のせいもあるのか彼より少しだけ幼く見える。
そして、体格はジョシュアよりも線が細く華奢で、フィオナよりも背は高かったが、ジョシュアより少し背が低かった。
フィオナは、彼に微笑み会釈した。
「お久しぶりです。ジョアンさま」
「久しぶり。フィオナ姫」
フィオナは、彼がジョアンだとすぐに気付き挨拶を交わす。
ジョアンは、ジョシュアの弟で、レノール王国の第二王子。
フィオナが幼い頃、よくレノール王宮に来ていた時は、ジョアンと遊ぶことが多かった。
活発で外で運動することが好きなジョシュアに比べて、ジョアンはおとなしめで虚弱体質だったので、城内で本を読んだり絵を描いたりすることが多かった。フィオナも活発な方ではなく本や絵が好きだったので、同い年のジョアンと気が合った。
幼いころのジョアンは、普段おとなしく一言二言しか話さない少年だったが、フィオナと打ち解けるようになるとよく二人で本の話をしていたことを思い出した。
急に懐かしくなったフィオナは、少しだけ緊張が解けたような気がした。
*****
Chapter5
フィオナは、レノール王国の侍女達に彼女の部屋を案内された。
淡いピンクと白を基調とした可愛らしく豪華な部屋だった。優雅な曲線の家具に華やかな装飾が施され、その部屋の優美さに唖然とした。
「何か御用がございましたら、お申し付けください」
フィオナが唖然としていると、レノール王国の侍女は杓子定規に挨拶する。
「ありがとうございます」
レノール王国の女官達が部屋から去っていくとフィオナの緊張が少し溶けた。そして、護衛のネイトがフィオナの荷物を部屋に運び終わるとフィオナに声を掛けた。
「これから俺は陛下に就いて、このシャルディー城を案内してもらってくる。何かあったら呼んでくれ。じゃあ、またあとで」
ネイトは忙しそうに部屋を出て行った。フィオナは慣れ親しんだ人がそばにいてくれると安心すると思ったが、この王宮ではいつも一緒にいられるわけではないと改めて感じた。
すると、少し寂しさを感じているフィオナの横から、明るい声が飛んできた。
「疲れましたね。フィオナさま」
侍女ソフィーだった。フィオナはソフィーの声を聞いて気持ちが前向きになる気がして(しっかりしなきゃ)と心の中で言い聞かせた。
「そうね。でも夜にはパーティーが開かれるそうだから、その準備もしないと」
「ドレスは、どれになさいますか?」
侍女ソフィーが晩餐会に着ていくドレスを持ってきたトランクから出そうとすると、向かいの壁に豪華なドレスがかけてあった。糖衣菓子のようなペールピンクのドレス。
オフショルダーで、胸元のドレープには薄いピンクのバラの装飾が施されいる。
幾重にも重ねられたオーガンジーのスカート部分は、七色のビジューが散りばめられていて、雨粒を抱いて虹色にきらめく雲のようにふんわりしたデザインになっている。そして、そのドレス似合う白く輝く靴も近くに用意されていた。
用意されていた部屋もドレスも、フィオナのかわいらしいイメージに合わせて特注したようだった。
「とても素敵なドレスですね。フィオナさまによく似合いそうです」
「これを着て行った方がいいのかしら?」
「せっかく御用意してくださったのですから、ぜひ着てみてはいかがですか?フィオナさまにぴったりですよ」
フィオナは、かけてあるピンクのドレスもとても素敵で気に入ったが、母から渡されたスカイブルーのドレスを着たかった。
しかし、用意していただいたドレスを今夜の晩餐会で着ないのは失礼だと思いピンクのドレスを着ることにした。
*****
Chapter6
「とてもよくお似合いです。フィオナさまかわいい」
うっとりしている侍女ソフィーの褒め言葉に照れ臭くなるフィオナ。
「ドレスはとてもかわいいのだけれど胸元開いて、なんだか恥ずかしいわ」
ハートカットネックデザインのドレスは、フィオナの胸を強調していた。バストアップされた胸は、谷間がくっきりとなり、胸がこぼれ落ちそうになっている。こんな大胆なドレスは着たことがなかったので、戸惑ってしまった。
「フィオナさまは、胸がおありになるので、全然恥ずかしくなんてありません。私の胸を見ればわかります!」
「もう、ソフィーったら」
フィオナは、口元に手を添えながら笑った。
ソフィーといると不安な気持ちを軽やかにしてくれる。
ソフィーも故郷や家族達と離れて、ここに来ているのに、自分を勇気付けてくれる。
自分ももっと頑張らなければいけないと、フィオナは思った。
(でも、何から頑張ればいいのかしら?)
すると、部屋のドアがノックされた。
フィオナは、胸元を隠すようにショールを巻いてドアを開けると、第二王子のジョアンが立っていた。
「ごめん。支度中だった?」
「いえ、もう終わったところです」
「敬語はいいよ。同い年なんだし。子どもの頃はよく図書室で本を読んだりしただろ?もう覚えてない?」
「ううん。覚えてるわ。図書室に2人で隠した手紙も覚えてるわ」
「懐かしいな。未来の自分達への手紙」
「もうないの?」
「あのままいじってないから、誰かが盗み取ってなければ、まだあそこにあるはず。今度一緒に探そう」
「ええ。楽しみ」
「きっと、子どものくだらない文章しか書いてないと思うけどね」
「ひどい。内容は忘れてしまったけど、あの頃は真剣に書いたはずよ。たぶん」
「それより、渡したいものがあって来たんだ。晩餐会が始まってからじゃ、騒がしいだろうし」
そう言ってジョアンは、ゴールドのリボンで装飾されたクリーム色の小箱をフィオナに渡した。
「何?」
「開けてみて」
フィオナは、リボンをそっとほどき蓋を開けると、大きなピンクダイヤモンドのネックレスが入っていた。
「これから家族になるお祝い。兄さんが君をお嫁さんにすればの話だけどね」
フィオナは、困惑した顔をする。
「冗談だよ。いじると困った顔するのは子どもの頃から変わってないね」
フィオナは、ジョアンの冗談をうまく切り返せなかった。
「あ、ありがとう。でも、悪いわ。ドレスとか靴とか、こんなに」
「そのドレスは兄さんからだろ?こっちは僕からだから」
「ありがとう」
「じゃあ、あとで」
「うん」
*****
Chapter7
ジョアンがくれたネックレスは、ジョシュアが用意してくれていたドレスとセットのチョーカーに重ね付けしても似合うデザインになっていて、フィオナは、両方つけて宴に出席することにした。
レノールの侍女がフィオナの部屋のドアをノックする。
「晩餐会のお時間です。お迎えにあがりました」
フィオナは、緊張から高鳴る胸を押さえて晩餐会の開かれる大広間へ向かった。
*****
*初稿2021.1.14*
*第二稿2021.1.25*
*第三稿2021.1.27*
*第四稿2023.9.21*
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