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ニ.
アイツだ。アイツ。
悔しいけど、勝てない。アイツには。
川のせせらぎのようなおしとやかで綺麗な声。アイツは何十年に一度の逸材だと褒め称える先生達。誰にでも優しく、明るい出来過ぎた性格。
「これ、絶対西花園さんがトップだよね」
「どれでもそうでしよ」
発表を終えて、タオルで首筋を拭いている子達の雑談。そう。そうなのだ。アイツの名前は、
西花園 澄乃。
何でも出来てしまう、高嶺の花。
「次、田中」
「はい」
どれだけ足掻いても、努力しても、グループトップの座は奪えなかった。現在も、頂点の椅子には彼女がいる。
はぁ…。
あたしはいつも2位の田中、澄乃ちゃんのひとつ下…なんて、比べられた肩書きしかもらえない。
カチ、と曲が流れ始めた。少し、寂しさも含むJ-POP。指先、足先まで集中させて、しなやかに舞った。
その姿は、休憩している疲れ混じる蝶のように。その姿は、大空を切り咲く鳥のように。その姿は、あたしにしかみせられないものにするために。
曲が終わった。羽根を閉じた。お辞儀をした。
「おお〜」という歓声の元を歩いて座った。あたしは知っている、これは嘘であることを。
「最後、西花園」
「はい」
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