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晴れた谷間に風が鳴く。
白銀の霊山は、生きる者を拒むような厳しい冬の姿をしている。樹氷の枝の合間から見える空は、この季節にしては珍しく青かった。久しぶりに顔を覗かせた朝日が眩しい。
長い黒髪から覗く二本の角を持つ男は、雪山だというのに薄絹の狩衣を纏う。かつては京の都で陰陽師に使役された鬼神が、遠国に流れ着き、今は見る影もない。
凪は雪の止んだ空から目を反らした。
冷たい新雪に埋もれた己の足元を見つめるうち、凪の耳に場違いな歌声が届いた。
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