【2000字掌編】目に映るは、止まぬ雪

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 風に混じって聞こえるのは、張りつめた三味線の音だ。  それに若い女の声。  凪が藪を越え道に近づくと、いよいよ大きくなってくる。人の恨みつらみに嫌気が差して都を離れた凪は、招かれざる客人に口をへの字に曲げた。  あれは……瞽女唄(ごぜうた)だ。哀愁のある語りの音楽は、凪も聞き覚えがあった。  瞽女(ごぜ)とは、盲目の女旅芸人のことである。豪雪地帯などの農閑期に訪れ、門付巡業で唄や曲を披露する。生業のため、険しいこの峠を通っていく瞽女も少なくない。何かゆえあって春を待たず道を急ぎ、仲間とはぐれたという所だろうか。  峠道は大きな杉が傘になり雪は少ない。そんな道端の大岩に、女が腰かけている。  古びた旅装束は寒さを凌げまい。なのに三味線の弦を弾く撥の動きは、熟練した芸人よりも冴えわたっていた。三度笠の下の顔を見ると、年は二十歳ごろに見えた。
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