参加者 パイン

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

参加者 パイン

「へぇー、漁師なんですか!   すごいですねー!」 そう言いながら、私は手を小さく叩く。今は深夜帯だから、あんまり大きな声を出すと、隣部屋の人に怒られてしまう。 生まれてからずっと都心で過ごしてきた私にとって、『漁師』という職業は 聞きなれない仕事だった。 私の両親は、互いに教師。そのせいで、昔からだいぶ窮屈な生活をしていた。 しかし、長年の辛抱の甲斐あって、今は両親の元から離れて、アパートで一人暮らしをしている。 そして、大学に行きながら、将来声優になる為に、様々な活動も自発的に 行なっている。 その中の一つが、『ライブ配信』だ。自分の演技を直接見てもらい アドバイスを貰う事ができるからだ。 通っている大学にも、アドバイスをくれる同志がいる。ただ、最近は滅多に 皆と会えない為、自主トレに没頭していた。 そんな中、非日常的なスリルを楽しめる、アユムさんのオンライン配信は 毎回楽しみにしている。 ゲームや漫画の世界なら、肝試しスポットに行けば、必ず何かしらの ハプニングがある。 ただ、現実世界の場合はそうでもない。案外、何も起こらずにに終わる事も しばしば。 でも、幽霊に対してそこまで耐性のない私は、心霊スポットの雰囲気を感じるだけでも、相当な刺激になる。 高校の卒業旅行に、有名なテーマパークへ行き、ノリでお化け屋敷に入った。だが、私は数分も経たずにギブアップ。 『テーマパーク』という夢心地に胸躍らされた結果、真逆の世界へ堕ちた。 今では笑い話だが、ちょっとした黒歴史と化してしまった。 「じゃあ次は、『パイン』さんだね」 「はいっ!   パインでーす。声優目指して頑張ってまーす。」 「おぉ、凄いな! 声優さん志望か!」 私がノートパソコンの前で手を振ると、コメント欄が「かわいー!」や 「声綺麗!」という類のコメントで埋め尽くされる。 アユムさんの配信も毎回楽しみにしているけど、私自身もネットで活動をする事で、自分のモチベーションを上げている。 ・・・まぁ、アンチコメされて、上がらない場合もあるけど。まぁボーッと 過ごすよりはマシだと思う。 それくらい私は、夢に向かって真剣な事もアピールしたいし。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!