無言の119番通報が何度もあった

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 ちょうど山の別荘のニュースが話題になってた頃だから、ケイちゃんはまだ生まれてなかったかもしれないな。俺の小学校のときの同級生の家なんだけどね。あの時で七十歳になったぐらいの歳だったかな、あいつは奥さんとふたり暮らししてたんだ。娘さんは割とすぐに結婚したから早くに家を出ていたんだよ。その家に、誰も電話をしてないのに救急車がくるっていうことが何回もあってね。消防署で電話を取ったらいつも無言だったらしいんだよね。だけど、まあ何があってもおかしくない歳だし、念のために出動してくれてたんだろうね。  でも、救急車が来るたびにサイレンが響き渡るし、家に行くまでの道は結構狭いから毎回大ごとになってて、しかも行ってもふたりともピンピンしてるもんだから、これは何とかしないとって、町内会で集まって原因を探してみることになったんだ。俺はあの町内会とは違うところに住んでたけど、よく将棋会館であいつに会うから、話は聞いてたんだよ。だから俺も気になって、あいつの家に何回か行ったんだ。  NTTの人も調べに来てたな。じじばばのふたり暮らしだから、家の電話はずっと黒電話のまんまだった。黒電話ってケイちゃんはわかるよね? そうそう、うちにある、そのダイヤル式の黒い電話だ。このタイプはもう古いから、電話線が何らかの不具合を起こして、偶然に発信してしまう可能性もあるらしいんだよね。でもそいつの家の電話は、設備の問題は何も見つからなかった。
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