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あいつの家には、娘さんが子供の頃から弾いていたピアノがずっと置いてあった。娘さんにはそのピアノで、ブラームスの作品119番の一曲目を弾いてもらったんだ。俺はクラッシックのことは全然わからないけど、あれはいい曲だったな。心に染みるっていうのかな、俺の記憶の中のあいつのお父さんみたいに、優しくて包容力がある曲だった。娘さんは弾いている間ずっと涙目で、弾き終わったら泣いてたな。俺もあいつも奥さんも、みんな静かに泣いてた。それ以来、もう救急車は来なくなったよ。孫娘との約束を果たせて満足したんだろうね。
不思議な話だろ? こんなこともあるんだなぁって思ったよ。え、俺が百歳になったら? いいよいいよ、何もしてくれなくて。俺はケイちゃんがこうやって、ちょくちょく遊びに来てくれるだけで嬉しいんだ。そうだ、昨日もらった缶ジュースが冷蔵庫にたくさん入ってるから持っておいで。俺はぶどうジュースをもらおうかな。
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