9.利害が一致するとかしないとか

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「何だかいつもより優しいから、別人に見えて忘れてましたぁ〜」  へらりと笑ったら、「僕はいつも女性には結構優しくしてると思うんですけどね」とか。  ――あらヤダ。それ、本気でおっしゃられてます?  心の中でそう思って、何だか滑稽(こっけい)で堪らなくなる。  クスクス声に出して笑い転げたら「飲み過ぎです」ってグラスを置かれて、代わりにキッチンからマグに温かいお茶を注いだものを持ってきて渡される。  それを受け取りながら、 「自己評価甘すぎですね」  満面の笑みでそう言ったら、 「でしたら僕がどれだけ優しいか、春凪(はな)にも身をもって実感させてあげましょうか?」  って。  そんなのすぐには無理に決まってるじゃないですか。 「お手並み拝見しまーす」  笑いながらマグのお茶をそっと喉に流し込んで、すぐ横の宗親(むねちか)さんを見るとは無しに眺める。 「では――。お望み通り、僕が全力の優しさでもって、家なき子になりそうな部下を助けて(しん)ぜましょう」  やたら仰々(ぎょうぎょう)しい物言いをしてニヤリと笑うの、ずるい。  その笑顔は、いつもの如何にも〝人畜無害です〟みたいな嘘くさい営業用スマイルではなくて。  思わずゾクリとさせられてしまうような、とびっきりの腹黒スマイル。  なのにいつもより数倍かっこよく見えて、胸が一際(ひときわ)大きくドキンッ!と高鳴った。  これはきっと、お酒のせいね。 692d090c-7451-4494-9c6c-9132d5c52c03
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