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扉が閉ざされる音とともに、部屋が薄暗がりに包まれてホッとしたと同時、今度は耳が痛いほどに研ぎ澄まされて。
「何だか親御さんとの間で手違いがあったみたいで、住む所を失いそうなんだそうです。言ってくれれば僕がすぐにでも解決出来たのに。彼女、遠慮してなかなか話してくれなかったから――」
そこでアイランドキッチンの天板上にあえて取り出してあったブランデーのボトルを元の棚に戻す音がして。
次いで流しにわざと残したままにしていたコーヒーカップを食洗機の中に入れているんだろうなという、カチャカチャという音が聞こえてくる。
そんな音に、「僕が少し小細工をしました」とおっしゃる声が重なって。
「まさか宗親さん。春凪さんの同意も得ずにコーヒーにお酒を入れたの?」
あなたって子は!と、溜め息混じりに愛息子を咎める声が聞こえてくる。
「入れたと言っても大匙に軽く一杯ですよ、母さん。……春凪、物凄く取り乱しているようだったので、少しアルコールが入れば気持ちが落ち着いて話せるようになるかな?と思っただけです。もちろん彼女だけにというのはフェアじゃないので、僕のにも入れました」
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