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「母さん。僕は困っている恋人を見捨てるような薄情息子にはなれません。春凪とはゆくゆくは結婚したいと思っていましたし、だったらいっそ今でも、って考えるのは普通でしょう? 情を交わした相手を、僕は簡単に見捨てることが出来ない。――ねぇ母さん。僕のこう言う情深いところって、きっと貴女似だと思うんですよ」
何ら淀みなくサラサラと紡がれる言葉に、私は布団の中で「腹黒すぎです、宗親さんっ」と思わずにはいられない。
でも、母親である葉月さんには今の言葉はすごくすごく自尊心をくすぐられる甘言だったみたいで。
「そう思いませんか?」
まるでダメ押しだとでも言わんばかりにそう畳み掛けられた葉月さんは、
「宗親さん。貴方、春凪さんとのこと、本当の本当に本気なのね?」
ややして小さく吐息を落とすと、柔らかな声音でそう問いかけるのが聞こえてきて。
「もちろんです。遊びで付き合っている女性を、僕の大切な母さんに会わせるなんて失礼なこと、できませんよ」
いけしゃあしゃあと、宗親さんが即答する声がする。
葉月さんっ。息子さんに騙されちゃダメですよぅ!
彼が言う、遊びではないその〝恋人〟とは、アレもコレも〝偽装〟なんです!
嘘だらけですよっ!?
今すぐにでもベッドから飛び起きて、声を大にして言いたいけれど、そんなことをバラそうものなら、私、即刻公私共に居場所を失うのは分かっていたから。
グッと言葉を飲み込んだ。
宗親さんの、「僕がゴネますから」の威力を、私、布団の中で歯ぎしりしながら、今まさにまざまざと感じさせられています。
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