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「話しているうちにまた泣き出してしまった春凪をなだめすかしてやっと寝かしつけたんです。そっとしておいてもらえますか?」
そんな声が扉の向こうから聞こえてくる。
宗親さんの指示のもと、〝疲れて眠ってしまった〟という小芝居をさせられている私は、葉月さんに嘘寝をしている顔を覗き込まれなくて良かったとホッと胸を撫で下ろして。
布団の中、扉一枚隔てた向こう側の会話を一言一句漏らさずに聴かねばと聞き耳を立てていた私は、宗親さんの牽制に安心してほんの少し肩の力を抜く。
宗親さんからはもしもの場合に備えて布団を目元まで引き寄せて寝そべっておくように指示を受けていたけれど、それにしたって、覗き込まれたら瞼がピクピクしてしまったかも知れない。
私は宗親さんほど肝が据わっていないし、そもそも嘘だってつき慣れていない。
もしもを思うと気が気じゃなかったの。
僕も出来るだけフォローはしますので、という彼の言葉を信じていなかったわけではないけれど、さすがです、と閉ざされた扉を見つめながら密かに感謝する。
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