14.接点なんていくらでも作れるはずなんだ

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「けどなぁ、織田(おりた)。お前も知っての通り、あの子には同い年の彼氏がいるんだぞ? ――お前のことなんて視界にも入ってなさそうだし。……そもそも今後も接点なんてねぇだろ?」  下手を打ちたくなくて、目立たないよう鳴りを潜めているんだ。視界に入るはずがない。  僕があの子の視界に入る時は、確実に彼女を手中におさめられるという確証が得られた時だ。  それまでは、僕のことを認識してもらっては困るとさえ思っている。 「馬鹿なんですか? 接点なんて作ろうと思えばいくらでも作れます。――ねぇ明智(あけち)。そもそも同じバーの常連ってだけでも十分お膳立(ぜんだ)てされていると思いませんか?」  僕はいつもこの店の一番奥。  元々薄暗い店内でも、特に明度の低い位置。  カウンター席の、入り口から一番離れた最奥の席に座るようにしている。  対して彼女は基本テーブル席を好むようだ。だが、店の混み具合によってはそこを確保できず、僕が座るカウンター席、同じ並びのどこかに着座することもある。  席が近ければ会話に聞き耳を立てて情報収集ぐらいはするけれど、離れているときは気配を気にしつつも素知らぬふりを決め込んで。  それが、僕のいつものスタンスだった。  接点なんていくらでも作れると思っているのは事実だけれど、おいそれとはその踏ん切りが付けられないのもまた真実で。  そんな煮え切らない現状を打開したくて、わざわざ呆れられるのを承知で明智(あけち)に胸の内を吐露したのだ。  母親からの見合い話もこのところ段々激化してきているし、いい加減本気で動かないとにっちもさっちも行かなくなりそうだった。  何もせずに欲しいものを諦めるなんて、真っ平御免だ。
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