14.接点なんていくらでも作れるはずなんだ

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***  履歴書の中、リクルートスーツに身を包み、いつものほんわりした雰囲気とは違った硬い表情で写った彼女の写真。  それに記載された名前を見た瞬間、僕の妹――夏凪(かな)(つい)になったようなその名に、運命的なものを感じたと言ったら言い過ぎだろうか。  確かにバーで彼女が「ハナ」と呼ばれていたことは知っていた。  だけどそれが、あんな風変わりな字を当てて読ませるだなんて、誰が想像出来ただろう?  妹の名が同じ様に変わった字面で構成されているのを棚に上げて、僕は今までその可能性に微塵も思い至っていなかった。  ――こんなの、運命の相手(ひと)としか考えられないじゃないですか。  そう信じた僕が、すぐさま社長に掛け合って、彼女のことをどうしても自分の部署に引き抜きたいと話したのは、ここだけの話だ。  うちの父の会社と懇意(こんい)にしている雇われ先の社長が、彼の息子で……ゆくゆくは大手取引先の跡取りになることが分かっている僕の提案を無下(むげ)にすることはないだろうと知った上で、僕は権力を行使した。  それ程までしてでも、手中に収めたいと思ったのだ。  ――柴田(しばた)春凪(はな)という名の女の子のことを。  いつか正直にそんなアレコレを話すような日が来たならば、キミはどんな反応をするんだろう?  契約で縛るような真似をしてまで自分のことを妻に(めと)ろうとする男なんて、気持ちが悪いと思うかな?  だから……。  やはり諸々(もろもろ)の経緯を含めて、この気持ちは、絶対に春凪(はな)に知られてはいけない。  僕が彼女のことを本気で愛しているということは、僕の中で春凪(はな)に対してのトップシークレットになった。
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