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小さかった私の頭を撫でながら、祖父が時折うわごとのようにつぶやく、「春凪が男の子だったら」という言葉は、女として生まれた私の自尊心を、少なからず傷付けたの。
母は結局私以外に子供を授かることができなかったから、私の孫としての地位は幸いにして不動だったけれど、もしも弟が生まれていたらきっと――。
男の子を望む割に母方の血族には男の子が生まれにくい傾向があるのだと、母が「まるで呪われてるみたいでいい気味ね」とつぶやいたのを私、聞いたことがある。
――きっと、将来春凪ちゃんが産む子も女の子ばっかりよ、という言葉とともに。
私、おじいちゃんと、婿養子に迎えた義理の息子である父とのほうが実の娘である母と、よりも考え方が似ているというのを何だか皮肉だなと思ったりして。
『春凪は大きくなったら地元の賢くて立派な男の人をお婿さんに迎えるんだよ。そうして柴田家に立派な男の跡継ぎを産んでおくれ。わしに任せておけば大丈夫だから。な?』
おじいちゃんが私を膝の上に乗せて頭を撫でながら繰り返し繰り返し投げかけた言葉は、私にとっては苦痛でしかなかったと、本人は気付いているかしら。
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