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宗親さんに言わせると、社長の息子だからといって、その会社のトップの席が必ずしも約束されているわけではないらしい。
現に、自分と同じ役職の名刺を持つ人間がもうひとりいて、副社長としての業務は今現在、ほぼその人がこなしているらしい。
そう述べた後で、宗親さんは堂々と胸を張った。
「けれど、僕はその座も――、もちろんトップの座も他者に譲る気はさらさらないのです」
ただ、今のままの自分では知識不足なことも、経験不足なことも重々承知しているのだと彼は申し添えて。
「だから僕は我が社の慣例に従い、他の取締役たちを黙らせる力をつけるため、現在外部の会社で研鑽を積んでいる最中なんです」
そこで一旦言葉を止めると、宗親さんは私に視線を流した。
「僕はこの研修期間中に、父から責任ある大人の男として〝家庭を築くための伴侶を得る〟ことも言い渡されていました」
もちろん無理なら見合いも視野に入れることはやぶさかではないと考えていたのだが、わたしと出会ってその必要はなくなりました、とにっこり微笑まれて。
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