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「父にはこれから紹介する段取りですが、母と春凪さんは既に面識があります。少なくとも母親は彼女のことを気に入ってくれていますし、僕も春凪さん以外の女性と入籍するつもりはありませんので必ず説得してみせます」
宗親さんは父の値踏みするような視線にも何ら動じることなく背筋をピンと伸ばしてにこやかに微笑んだ。
その上で続けるの。
「正式に話がまとまり次第、次回はうちの両親とともにご挨拶に伺おうと思います」
大会社の社長が、一介の田舎娘のためにこんな僻地まで出向いてくると聞かされた父は、それだけで舞い上がってしまったみたい。
「いやっ、それではお忙しいのに申し訳がない。こちらのけじめとしてその際はそちらが都合の良い場所までうちが出向いて顔合わせといきましょう」
父の物言いに微かな引っ掛かりを感じた私は、幼い頃から言われ続けてきたことを思い出してにわかに不安になる。
それと同時、自分の半分ほどしか生きていないであろう宗親さんに、父がヘコヘコと頭を下げる様を見るのは何だか滑稽にも思えて。
父の背後に黙って控えている母が、私の方を見て口の端に小さく笑みを浮かべたのを私、見逃さなかったよ?
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