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「…………うちとしても、柴田が断絶するのは……避けたいのです」
ややして父がやっとの思いで重い口を動かしたかのように歯切れ悪くそう言って……。
柴田とは家柄の格が段違いの織田との縁を失うことは心底惜しいと滲ませつつも、そこだけは譲れないのだ、と言う強い意志を感じた私は、その予想通りの言葉に無意識に身体を強張らせた。
と、そんな私の手を宗親さんが大丈夫だとなだめるようにギュッと握って下さって。
それだけで、不思議と何とかなる気がしてきて驚いてしまう。
「…………もちろん、僕もすぐにお許しが頂けるとは思っていません」
だけど父の言動に宗親さんは強く出ることはなさらなくて。
珍しく結論を先延ばしにするような、そんな言葉を発していらしたことに、私は少なからず驚かされた。
そんな宗親さんに、父がどこか勝ち誇ったように言うの。
「では、こちらからひとつ提案です。――春凪を織田家に嫁がせる条件として、その子が最初に生んだ子供を柴田にくださる、というのは如何でしょう?」
言って、笑顔で付け足された父の言葉に、私は瞳を見開いた。
「もちろん乳飲み子の間はそちらで面倒を見て頂いたんで構いませんので」
そんな……生まれてくる子供の未来を勝手に!
黙り込んで何を考えているのかと思ったら、本当に酷い!
あまりの言い分に思わずキッ!と父を睨みつけて身を乗り出しかけた私を制して、宗親さんが動いた。
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