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可愛い割にしっかりとした風量のある扇風機の風に当たりながらじゃ、風の音が通話の邪魔かな?とスイッチを切ってスマートフォンの画面に視線を落とす。
番号だけが通知されているところを見ると、未登録の相手だ。
私、基本的には未知の番号からの着信には出ない主義だったけれど、不動産屋さんとの連絡ミスからの家なき子の記憶がまだ生々しく心の傷として残っていたから、警戒しながらも通話ボタンを押した。
「――もしもし?」
出たと同時、
『……春凪ちゃん? ああ、よかった! 知らない番号からだから出てくれないかとドキドキしちゃった!』
とやけに気さくな感じで女性に名を呼ばれて。
私は一瞬電話の相手が誰だかピンとこなくて、携帯を耳に当てたまま黙り込んだ。
と、
『え? もしかして分からないのっ? お母さんよ?』
キョトンとした声音で言われて「えっ。お母さん!?」と思わず大きな声になってしまう。
普段固定電話からかかってくるときの、どこか抑圧された雰囲気の声音とは余りに違う弾んだ様子に、声は似ているけれど別人だと勝手に脳が認識したみたい。
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