22.玉ねぎが目にしみただけ

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 私に話し掛けてしまった手前、彼、もしかしたらよそに座るのが躊躇(ためら)われて気遣ってくれているのかもしれない。  まぁもう、何でもいっか。隣に座られちゃったし。 「それで……あの」 「ああ、俺の名前ね。足利(あしかが)足利(あしかが)玄武(げんぶ)だよ。――記憶にない?」  聞かれて、そう言えばそんな名前の人もいたような、と思って「えへへ」って曖昧に微笑んだ。 「あ、いま絶対誤魔化したでしょ?」  ギクリッ! またしても図星。  何この人、エスパーか何かなの?  後に、「俺が何かを言い当てるたび、柴田(しばた)さんの肩、めっちゃ跳ねていたからね」と、足利(あしかが)くんに教えられるまで、私、これからしばらくの間、何度も同じ過ちを繰り返すことになる。  だけどもちろんこの時はまだ知る(よし)もなくて。 「入社式の時にさ、あんまり柴田(しばた)さん、ひとりで緊張してたから『よろしくね』って声掛けたんだけど……それも忘れちゃった?」  ああ、それは覚えてる! 「あの時のっ!」  それで思わず自信満々に横を向いて言ったら、思いのほか足利(あしかが)くんとの距離が近くてビックリした。
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