22.玉ねぎが目にしみただけ

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***  その日の夜。 「――ただいま、春凪(はな)」  宗親(むねちか)さんの帰宅の声に、本当はすぐさま玄関先まで駆けて行って「お帰りなさいっ」って忠犬みたいに尻尾を振りたい気持ちをグッと抑えつつ。 「お帰りなさぁ〜い」  と玄関に向けて、キッチンから声だけ返した。  だって私は偽装妻(になる予定)の身。そんなラブラブの恋人みたいなことをしてしまったら、きっと引かれちゃうもの。 「見積書、有難うございました。完璧な出来でしたよ」  宗親(むねちか)さん、私が彼のデスクの書類入れに「チェックお願いします」という付箋をつけて放り込んでおいた見積書のチェックまで済ませて帰宅なさったんだって思って。  頑張り屋さんな宗親(むねちか)さんのお役に立てたことが嬉しくて、またもや心が浮き足立ってしまう。  振り返って「足手まといにならずに済んで良かったですっ」ってギュッと抱きついたり出来るような甘々な関係だったら良かったのに。  身の程を(わきま)えるのって案外難しい。 「良かったです……」  そんなアレコレの感情をグッと抑え込んで、振り返りもせずそう言って。
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