22.玉ねぎが目にしみただけ

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 宗親(むねちか)さんの仰った「形式的なもの」と言う言葉から、「偽装結婚だから」というニュアンスを強く意識させられた私は、自分でもそうだと認識して色々自粛(じしゅく)していたくせに――いや、自粛していたからこそ?――にわかに悲しくなる。  視界がじんわり涙で霞んだのを、「たっ、玉ねぎが目にしみてきちゃいましたっ」とヘラリと笑って誤魔化して。  前に婚姻届を出すお日柄のことは聞かれたけれど、今日出しに行くだなんて宗親(むねちか)さん、会社を出る時にだって一言も言わなかったですよね?  私、何の心の準備も出来てやしないんですよ?  なのにもう籍だけは入ってしまったの?  私の預かり知らないところで?  何で?  結婚って……2人の問題じゃないの?  1人だけで決めちゃっていいの?  そんな面倒臭いことを思ってるって知ったら、宗親(むねちか)さん、私のこと偽装妻として失格だって……嫌になりますか?  とかアレコレ思ったら、どうしようもなく切なくなって、鼻の奥がツンと痛んで涙が次々に溢れ落ちるのを止められなくなった。  ダメだよ、春凪(はな)。  こんなところでこんな風に泣いたら、さすがに宗親(むねちか)さんに変に思われちゃう!  あぁ、でもっ。私いま、玉ねぎを切ってるところで本当に良かった。  宗親(むねちか)さん、この涙はね、玉ねぎが目にしみただけです。  それ以上の意味なんてないのです。  そう、貴方に言い訳できるから――。
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