23.本音と指輪と初めての夜

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「あ、あのっ、宗親(むねちか)さんっ、私まだ心の――」  準備がっ!とか何とか続けたいのに、手を引かれて歩き出されてしまったから、言えない言葉が心の中で空回りしてしまう。  ――ばかりか。 「もしかしてまだ心の準備が出来ていませんか? でもね、大丈夫ですよ、春凪(はな)。そういうのは成り行きに任せているうちに追い付いてくるものですから」  ってこちらも見ないままに続けられたものだから「そんなの嘘ですよぅっ!」と思わず口に出してしまった。  私の抗議の声に立ち止まると、こちらに背中を向けたまま抑えた声音で宗親(むねちか)さんが言う。 「――前に途中までで()めた日、春凪(はな)は最後までしなかったことを不満に思ったりしなかったんですか?」  確かにあの日の私は、宗親(むねちか)さんを他の女性(ひと)達に取られたくない気持ちが溢れて、そんなことを思わなかったわけじゃない。  でも、それとこれとは別問題なわけでっ。  頭の中ではアレコレ考えているくせに、何ひとつ言えないでいる私に(ごう)を煮やしたように、宗親(むねちか)さんがつぶやいた。
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