25.初めての*

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***  私の心の叫びなんてどこ吹く風。  宗親(むねちか)さんはたらふくお寿司を食べていつもより数パーセントは重みが増しているであろう私を軽々と抱き上げたまま、ズンズン廊下を進んで行く。 「あ、あのっ、宗親(むねちか)さんっ。じ、自分で歩けますのでっ」  宗親(むねちか)さんってば何だか物凄いスピードで進んで行くから、まるで絶叫マシーンに乗っている気分です!  いや、実際にはそこまで速くないのは分かっているけれど、大好きな宗親(むねちか)さんに抱き上げられているという事実が、私の心臓を無駄に踊らせているの。  それが宗親(むねちか)さんに対するときめきなのか、スピードに対する恐怖心なのか、はたまたポンポコリンを見られてしまうことへの羞恥心なのか、最早訳が分からないことになっていますっ! 「却下です。春凪(はな)の歩みに任せていたら、また何だかんだ言い訳して牛歩(ぎゅうほ)みたいになりそうですから。――それに」  そこで私を冷ややかな目でチラリと見下ろしてから、 「せっかく外食にして片付け時間をなくして……店だって調理のための待ち時間がない回転寿司を選んだのに……。春凪(はな)。風呂であんなにタイムロスするとか有り得ないんですけど……?」  わ〜。  むっ、宗親(むねちか)さんっ。もしかしてお待たせしすぎてお(かんむり)ですかっ?  私は宗親(むねちか)さんの吐息まじりの抗議に、彼の腕の中でシュン、と小さく縮こまる。  でも、でも……。  そんなことおっしゃるなんて……宗親(むねちか)さんってばまるで――。
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