29.目立ち過ぎて困ります

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(嘘。そんなに親しくないはずなのに……お祝いしてくれる気なの?)  目が涙で潤んでしまっていることも失念して北条(ほうじょう)くんを見つめたら、私の様子に一瞬瞳を見開いた彼が、さもバツが悪そうに視線を逸らしながら続けた。 「――たった四人しかいない同期に祝い事があったら祝福するのは人として当然だろうが。俺はそういう義理は欠きたくないんだよ」  北条くんのその言葉に、足利(あしかが)くんがククッと笑って、「コイツ。照れ屋な上に口下手だから誤解されやすいけど結構〝熱くていい奴〟なのよ」とニヤリとする。  途端、北条くんに「黙れ」と睨みつけられて、足利くんはわざとらしく肩をすくめて見せた。  そこでエレベーターが到着して――。  北条くんが「仕事に戻る」と宣言して、サッサと箱の中に乗り込んでしまう。 〝あー! それ、私が呼んだやつです!〟  心の中でそう叫んだけれど、無情にも「閉」ボタンを押されてしまって、扉が閉ざされて。 (まぁ、だからって狭いエレベーターの中、北条くんと二人きりになるのは絶対気まずかったし、一人で降りてくれて全然構わなかったんだけどっ)
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