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でも、ここに足利くんと取り残されてしまったことを思うと、そんなに現状が打開出来たようにも思えない。
恨めしげにエレベーターの扉を見つめる私に、足利くんが
「俺ももちろんそういうのはちゃんとするつもりだからさ。前から誘ってる飲み、やっぱ近いうちにやろうや。――お相手のこととか色々聞かせてよ」
そう私の左手薬指を指差しながら言って。
そこで思い出したようにククッと笑うと、「俺ら今、完璧に北条のこと照れさせちゃったね」ってニヤリとするの。
(あれって……北条くん、照れてたの? 私、てっきり怒らせたんだとばかり……)
そう思いながらも、頭の中が「結婚相手のことを色々聞かれるのはまずいんじゃ……?」と言う思いにシフトして、にわかにソワソワし始めた私に足利くんの大きな手がスッと伸ばされてくる。
同年代の男性に苦手意識のある私が思わずビクッと身体をすくめたら、足利くんは私が押し忘れてしまっていたエレベーターの「下」ボタンを押してくれただけで。
「ごめ、なさっ」
恥ずかしさで真っ赤になった私に、
「俺は階段で降りるから柴田さんはエレベーター使って?」
私の自意識過剰な態度をスルーしてくれた足利くんが、ヒラヒラと手を振って去っていった。
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