29.目立ち過ぎて困ります

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「いっ、家でまで上司みたい喋り方しないでくださいっ」  照れ隠し。宗親(むねちか)さんを恨めしげに睨んだら、彼は一瞬驚いたように私を見つめてから、すぐさまクスッと笑って。  その笑顔は紛れもなく例の腹黒スマイルだったから、私は嫌な予感に身体をギュッと硬くした。 「それもそうですね。では、春凪(はな)のご提案通り、〝溺愛夫モード〟に切り替えましょうか」  ククッと喉の奥で楽しそうに笑うと、宗親(むねちか)さんが私の手からグラスを奪い取る。 「あっ、それ、まだっ――」  中身残ってます!って言おうと開いた口を、宗親(むねちか)さんのビールでひんやり冷えた唇で塞がれてしまう。  口中を掻き回す舌先に、すぐさま下腹部がキュンと疼いたのは、昨日の今日だから――? 「ふぁ、っ」  キスの合間、たまらず喘ぐように息継ぎをした私を満足そうに見下ろして、「春凪(はな)、キミは本当に可愛いね。こんな綺麗で愛らしい奥さんをもらえて、僕は幸せ者です」とか。  さっき、に切り替えるっておっしゃってたし、本心じゃないのは十分すぎるほど分かってるのに、馬鹿な私はついついほだされそうになってしまう。
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