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私は弾かれたように立ち上がると、手から取り落とした書類を床に広げたまま、玄関へ向かう。
意思のない機械仕掛けの人形みたいに惰性でドアを開けて、ペアマグ入りの段ボール箱を直筆サインで受け取った。
それをリビングまで持ち運ぶ気力もないままに玄関先にポトリと落として……。
エプロンも外さないままにフラフラと外へ出た。
背後でオートロックの玄関扉がバタン……と閉じる音を聞いて。
ぼんやりした頭で鍵をかけないでいいの、有難いな、とかどうでもいいことを思った。
エレベーターまでの内廊下をトボトボと歩いていたら、エプロンのポケットに入れていたスマホが振動して『印鑑、春凪には高いところに入れていましたが、無事見つけられましたか?』と宗親さんからメッセージが入る。
そこで、(あ、引き出し、下じゃなくて上の方のだったんだ……)と今更のように気付いたけれど、もうそんなのどうでもいいや。
(頭の中がぐちゃぐちゃで、返信する気になれません――)
私はエプロンを脱いでその場に落とすと、スマホを握りしめたまま茫然自失のままエレベーターに乗り込んだ。
(だって、ここには……居たくないんだもの)
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