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ぼんやりと街を歩いていたら、だらりと伸ばした手の先、無意識に握ったままだったスマートフォンがブーッブーッと震えて着信を知らせてきた。
画面を見ると北条くんからで。
着信と一緒に表示されている時刻を見ると、同期会の時間を十五分ほど過ぎていた。
見つめる先、画面をポツポツと水滴が染めて……。
「雨……?」
そこで初めて雨に降られている事に気がついた。
家を出た時には一時間半以上ゆとりがあったはずなのに。
私、どれだけぼんやりと街中を彷徨っていたんだろう。
いつ降り出したのか分からない雨が、しっとりと身体を濡らしていた。
七月とはいえ、夜に濡れたままでいると体温を奪われてしまうらしい。
そう意識したら、身体がすっかり冷え切っていることに今更のように気がついた。
無断で約束の時間に遅れているのだから、どんなに億劫でもこの電話には出なきゃいけないって思って。
応答ボタンをタップしようと思ったら、指先が冷え切っていて凄く押しづらいことに驚かされる。
「……もしもし?」
それでも何とか通話に切り替えたら「柴田春凪。遅れていることに対して何か申し開きがあるなら今すぐ言え」と、どこか無機質にも感じられる事務的でぶっきら棒な声。
でも、逆にそのつっけんどんな物言いが今の私には有り難く感じられて。
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