31-2.その頃の宗親

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 ふんわりラップが掛けられたそのそばに、『お鍋の中にお味噌汁があります。味噌煮はレンジでチンして温めてくださいね。ハナ』というメモまで置かれていて、春凪(はな)の気遣いに愛しさが込み上げる。  僕のことは気にしなくていいよと言っても、こんな風に何品も僕のために春凪(はな)が手料理を作ってくれたんだと思うと、胸の奥がじんわり温かくなった。  それと同時、落ちていたエプロンや、玄関先に無造作に転がっていた宅配物への胸騒ぎが強くなって。  だってこんなの、どう考えても〝春凪(はな)らしくない〟じゃないか。 「春凪(はな)?」  再度呼びかけながらテレビのあるリビングに行って――、僕は思わず息を呑んだ。 (な、んでコレがここに……?)  開けっぱなしになった、キャビネットの引き出し。  僕はテレビの上の、とメッセージを入れたはずなのに、背の低い春凪(はな)は無意識に下を開けてしまったのか。
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