2322人が本棚に入れています
本棚に追加
「苦しっ……」
本当に苦しいわけではなかったけれど、身動きが取れなくて不安だったから。
少し腕を緩めて欲しくて小さく声を漏らしたら「すみません、つい」と声がしてほんの少しだけ私を押さえつける力が弱まった。
それで恐る恐る腕の主を見上げたら、最初から声と匂いで分かっていたけれど「宗親しゃっ……」だった。
宗親さんが、腕の中の私をとても苦しそうな表情で見詰めてくるから。
私までつられて心臓がキューッと締め付けられてしまう。
「な、んで……」
――宗親さんがここに?(会いたくなかった……)
心にモヤモヤを抱えたままそう問い掛けるより先、宗親さんが北条くんの方を振り返って「経理課の北条くんですよね?」と言って。
今更のように北条くんの前でこんなラブシーンまがいのことをっ!と思った私はにわかに恥ずかしくなってしまう。
でもそんな私の気持ちなんてどこ吹く風。
宗親さんは私を逃してくれる気なんてさらさらないみたい。
北条くんと話しながらも、宗親さんの腕は私が抜け出せない程度にはしっかりと腕を絡めたままだったから。
私、こっそり逃げ出したくても逃げられないの。
最初のコメントを投稿しよう!