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「え、えっと……い、今のは、そのっ、ほ、北条くんの勘違いでっ」
北条くんが、私の罵声なんてちっとも気にしていない風に、振り返りもせず手を振って立ち去るのを呆然と見送って。
私は未だに腕を緩めて下さらない宗親さんにソワソワと言い訳をする。
婚姻届すら出ていない、この何だかよく分からない危機的状況の中、「好き」とかバレたら絶対まずい!
戸籍に傷がないのを理由に、宗親さんが彼に本気になった私をリリースすることなんて簡単に思えた。
どうかスルーしてくださいっ。
そう願う私の思いも虚しく――。
「春凪、さっき北条くんが言った言葉は本当ですか?」
どこか抑揚の感じられない声で宗親さんがつぶやいて。
耳元で落とされた低音イケボのささやきに、私は現状も忘れて鳥肌が立ってしまうほどゾクッとさせられた。
「あ、あのっ、だから……それは……」
――北条くんの勘違いで。
さっきと同じ言葉を繰り返そうとしたら、急に腕を緩めた宗親さんに、両肩をガシッと掴まれて真っ正面から顔を覗き込まれてしまう。
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