32.春凪の愚痴と宗親の本心

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*** 「え、えっと……い、今のは、そのっ、ほ、北条くんの勘違いでっ」  北条くんが、私の罵声(ばせい)なんてちっとも気にしていない風に、振り返りもせず手を振って立ち去るのを呆然と見送って。  私は未だに腕を緩めて下さらない宗親(むねちか)さんにソワソワと言い訳をする。  婚姻届すら出ていない、この何だかよく分からない危機的状況の中、「好き」とかバレたら絶対まずい!  戸籍に傷がないのを理由に、宗親さんが彼に本気になった私をリリースすることなんて簡単に思えた。  どうかスルーしてくださいっ。  そう願う私の思いも虚しく――。 「春凪(はな)、さっき北条くんが言った言葉は本当ですか?」  どこか抑揚(よくよう)の感じられない声で宗親さんがつぶやいて。  耳元で落とされた低音イケボのささやきに、私は現状も忘れて鳥肌が立ってしまうほどゾクッとさせられた。 「あ、あのっ、だから……それは……」  ――北条くんの勘違いで。  さっきと同じ言葉を繰り返そうとしたら、急に腕を緩めた宗親さんに、両肩をガシッと掴まれて真っ正面から顔を覗き込まれてしまう。
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