32.春凪の愚痴と宗親の本心

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 北条(ほうじょう)くんも忘れていたらしいけど、私の横に男性らしき人影があるからてっきり彼だろうと持って降りて来てみたら、北条くんではなく宗親(むねちか)さんだった、と言うのが真相らしい。 (足利(あしかが)くんが驚いたの、当然かぁ〜)  ちなみに私の傘は、ほたるが服と一緒に貸してくれたものだったから、持って来てもらえて本当に助かった。 「有難(ありあと)ぉ、足利(あしかぎゃ)きゅん……」  差し出された傘を受け取りながら言ったら、「柴田(しばた)さん、まだ呂律(ろれつ)回ってねぇのな」って笑われてしまった。  そこで宗親さんにチラリと視線を移すと、「彼女、相当参ってて飲み過ぎたみたいなんです。しっかりケアしてあげてください」とペコリと頭を下げて「じゃあ俺はこれで」とさっさと(きびす)を返してしまう。  私は何も言い返せなくて金魚みたいに口をパクパクさせてしまう。  宗親さんがそんな私をギュッと抱きしめて、「こんなところで立ち話も何ですし、僕らも帰りましょうか。続きは家でゆっくり……」とささやいた。  宗親さんの視線の先、彼の愛車の黒いハリアーが見えて。  私はコクッと頷いてから、「(くりゅま)の中れ、ほたる(ゆうじん)電話(れんわ)してもいいれすか?」と問いかけた。  ――ごめんね、今夜は家に帰ることになったの。後日また改めて会おうね。  そう、ほたるに伝えなくては。
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