33.彼には彼なりの理由があったわけで

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*** 「ほたる〜、ありがとぉーね。すっごく(たしゅ)かったぁ〜」  ほたるのところに寄って、借りていた傘と合鍵を返して。  鞄は故あって宗親(むねちか)さんがほたるに手渡して下さったんだけど――。 「夜分に突然お邪魔して申し訳ありません。どうしても直接お会いしてお礼が言いたかったものですから」  言って、宗親(むねちか)さんは、私がほたるに借りていた鞄を差し出した。 「春凪(はな)が大変お世話になりました。僭越(せんえつ)ながら、お借りしたお金のほうも、中に戻させていただいております」  宗親さんに耳元で言われて、間近でニコッと微笑まれたほたるが、カチンコチンになって「はっ。恐悦至極。有り難き幸せにございます!」と訳の分からないことを言うのを見て、何となくムッとしてしまった。 「宗親さ……っ! 近いれす!」  グイッと宗親さんの腕を引っ張ってほたるから遠ざけたら、嬉しそうに「すみません、春凪(はな)」と謝られて余計に悔しくなる。  そこで明智(あけち)さんに言われたことを思い出した私は、半ば腹いせみたいに 「ほたるぅ、今度Misoka(ミソカ)に飲みに行って色々ゆっくり話そっ⁉︎ 服も……その時に返しゅんでいい?」  とほたるに問いかけた。 「もちろん。アタシもめっちゃ聞きたいことあるし、近いうちに声かけてね」 「Misoka(ミソカ)のマスター、サービスしてくれるって言って()し、楽しみにしててー」  ほたるにそんな返事をして、してやったりと言う気持ちで宗親さんを見上げたら、不機嫌そうなお顔になっていて嬉しくなる。 (ふふん。意趣返しですよぉ〜だっ!)  心の中であかんべをして、私たちはほたるの家を後にした。
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