33.彼には彼なりの理由があったわけで

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 私の疑問に、宗親(むねちか)さんは一瞬だけ不機嫌そうに眉根を寄せて、「知っています」と苦々しそうにつぶやいた。 「あの男はキミを大切にしているようには見えなかったから……。最初のうちはね、何でこの子は自分を押し殺してまであんな男と一緒にいるんだろう?って心配で……目が離せなかったんです」  妹と同い年くらいの若い女の子が、酷い言葉を投げかけられながらも懸命に彼氏に愛されようと尽くしている姿が、余りにも痛々しく見えたのだと宗親さんに言われて……私はチクリと胸の奥が痛むのを感じた。  私自身、コウちゃんと一緒にいるとき、彼から大事にされていないと感じていなかったわけじゃない。  エッチのとき、ちっとも濡れてこないことを責められたのも覚えているし、それを何とかしたくてローションを用意したら鼻で笑われたのだって覚えてる。  濡れない上にローションを使ってでさえ痛がるから、私と一緒にいると男としての自信を喪失させられるってため息をつかれたことも一度や二度じゃなかった。  付き合ってるとき、面と向かって言われたことはなかったけれど、私の胸にも不満を持たれていたことも後から知ったし。  それでも先に好きだって告白してくれたのはコウちゃんからだったから、私は見た目だけでも彼に好かれた自分を保っていたくて……服装もメイクも……髪型でさえも彼の好みに合わせて始終コウちゃんの顔色を(うかが)ってデートしていたように思う。
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