33.彼には彼なりの理由があったわけで

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「けど……ご存知でした? Misoka(ミソカ)って学割がきくんですっ!」  一介の学生が、頻繁にバーを訪れることが出来るなんて、普通に考えたらおかしいと思う。  でも……Misoka(ミソカ)は、Misoka(ミソカ)だけはすっごくリーズナブルで。  Misoka(ミソカ)でならば、それが可能だったの。 「ワンコインで飲み放題、千円出したら色んなおつまみも付いてくるとかっ。すごくないですか? 明智(あけち)さん、神です!」  大学を卒業してから、学割がきかなくなるのが怖いって思う程度には、私、絶対学生の頃、優遇されていたと思うの。  就職してすぐ、宗親(むねちか)さんと色々あって足が遠のいてしまったけれど、それがなくてもある程度生活の基盤が整うまでは行けなかったんじゃないかな?  何せ私、通帳の残高が四桁を記録した女なので。(あ、い、今はちゃんと五桁越えました! 何ならもうじき六桁です!)  今度ほたると行ったらお土産もつけてくださるって言って下さったし、Misoka(ミソカ)のマスター明智(あけち)さんは、本当に商売っけのない人だなぁって思って。 「宗親さん、明智(あけち)さんも宗親さんみたいにどこかの御曹司か何かですか?」  お金持ちの道楽なら規格外の学割も、太っ腹なお土産も説明できちゃう気がした。 「明智(あけち)の父親はごくごく一般的なサラリーマンで、母親はスーパーでレジ打ちのパートタイマーをしています」  私の言葉に、宗親さんはちょっぴり不機嫌そうにそう返すと、おもむろに立ち上がられた。  私はそんな宗親さんを見上げながら(足、疲れちゃったのかな)って思う。
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