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「会いたかったよ、春凪」
腕は緩めてくれたけれど、未だに手首は固く握られたまま。
下手に刺激したらいけない雰囲気に、呼吸は整ってきたというのに私の心臓は苦しいくらいに猛スピードで全身に血を送り続けている。
「今更……何の用?」
一方的な最低の別れから数ヶ月。
卒業間近という肌寒い時期から、日が沈んでからも少し動けば汗ばんでしまうほどに季節だって移行していると言うのに。
その間、一度も音沙汰なんてなかった相手なんだから、そのぐらい聞いてもいいよね?
掴まれたままの手首を気にしながら恐る恐る言ったら、「俺、会社辞めたんだ」とか、どこか要領を得ない答えが返ってきて、私はますます混乱してしまう。
「今は……どう、してる、の?」
だけど康平の言葉に乗っからないと話が前に進まないというのも、付き合っていた時の経験から何となく分かっていた私は、一旦自分の疑問は横に避けてそう尋ねた。
「貯金を食い潰しながら何とかやってる。けど……とうとう家賃が払えなくなっちまってさ」
アパートを引き払うことになったらしい。
自分もちょっと前に――滞納ではなかったけれど――家を追われたことを思い出した私は、康平のその言葉にほんの少しだけ同情して。
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