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私にはたまたまその時、手を差し伸べて下さる宗親さんが現れたから良かったけれど、そうでなかったら今頃実家に戻らざるを得なくなっていたと思う。
「じゃあ、これからどこに住む予定? 実家に戻るの?」
何気なく聞いたら「お前を頼ろうと思ったのに……何で勝手に引っ越したりしたんだよ」とか、それ、貴方に言う義務ありませんよね?という因縁をつけられた。
「だって……私たちもう……」
「別れたからってサッサとそこで縁切りかよ。冷てぇ女だな」
ギュッと握られたままの右手首に力を込められた私は、痛みに思わず眉根を寄せる。
康平は付き合っていた頃、暴力を振るうような人ではなかったけれど、ちょいちょい暴言で私を傷付けた。
今の彼はどこか普通ではない気がするし、もしかしたら手を上げられる可能性だってないとは言えない、と思って。
「康平、……痛い」
なるべく彼を刺激しないように。
すぐそこは道路とはいえ、そんなに人通りが多い道でもないし、ましてや今私たちがいるのはそこから少し奥に入った建物の隙間だったから。
せめて外の道に出ないと、って気持ちばかりが焦ってしまう。
私を掴んだ康平の手にそっと左手を乗せて抗議したら、「お前、何だよ、その指輪」って今度は左手を掴まれてしまった。
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