35.やり直そう

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「なぁ春凪(はな)。俺、お前と別れた時に(いさぎよ)くお前の番号消しちまってっからさ。今お前に逃げられたら連絡取れなくなっちまうんだよ」  まるで「逃がさない」と言われているみたいに腕の力を更に強められた私は、痛みに思わず眉根を寄せて。 「また毎日のようにMisoka前(ここ)でいつ来るか分かりもしねぇお前を待ち伏せすんの、もう飽き飽きなんだわ」  勝手なことを言う康平のぼやきを聞きながら、心の中では彼が私の連絡先を消してくれていて良かったと心底ホッとした。  私も康平と別れた後、情けなくて悔しくて悲しくて……。  ほたるに「そんなサイテー男の番号なんてさっさと消しちゃえ」って勧められてMisoka(ミソカ)で飲んだ時、ほたるの目の前で康平の番号を連絡先から抹消してある。  だけど自分の番号は変えたりは(リセットしたり)していなかったから。  康平が、フった私のデータを潔く?削除してくれていて良かった!と思いながら、どうせならずっと潔いままでいてくれたら良かったのに!と至極当たり前のことを思った。 「坂本さんはお前と違ってしょっちゅうここに来てるけどさ。彼女に聞いても全然教えてくんねぇんだわ。だから――」  そこまで言うと、康平が私の耳に唇を寄せて(ささや)くの。 「手ぇ離して欲しかったら連絡先教えろよ、春凪」  付き合っていた頃は大好きだったはずの康平の声が、今はただただ嫌悪の対象でしかない。
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