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今すぐにでも宗親さんに「春凪」って呼んでもらって、この寒気がするような不快感を綺麗さっぱり払拭して欲しい。
そんな康平に連絡先なんか教えたくないという意思表示でフルフルと首を横に振ったら、すぐ耳元で康平がチッと舌打ちをして。
「だったら今ここで婚約者んトコに戻れねぇ身体にしてやるけど、それでもいい?」
サラリと恐ろしいことを言って、康平がまるでキスでもしたいみたいに顔を寄せてくる。
私はそんなの絶対に嫌だったから、思いっきり身体を反らせて彼から逃れようともがきながら必死に喚いた。
「嫌ぁっ! 康平! 離して‼︎」
目の前の私から、悲鳴に似た声が口を突いて出ているというのに、一向に怯まない康平に、私は絶望的な気持ちになる。
私はこんな碌でもない男と一年半も交際していたの?
付き合っていた頃のことまで否定したくなんてないのに、過去まで丸っと無かったことにしたくなるような愚行、お願いだからやめて!
必死に抵抗して私を掴んだ康平の腕を引っ掻いたら痛かったのかな。一瞬だけ彼の腕の力が緩んだ。
私はその隙を逃さず、拘束する腕から抜け出すと道のほうに向かって走り出ようとして。
康平に足を引っ掛けられて前のめりにつんのめった。
「きゃっ」
咄嗟に両手を突いて身体を支えたけれど、両膝を盛大に擦りむいてズキッとした痛みが走る。
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